Autodesk Inventor 図面(IDW・DWG)・Presentation(IPN)
概要
Inventorの製造成果物は大きく二つに分かれる。設計寸法・GD&T・BOMを盛り込むDrawing(.idw / .dwg)、そして分解図・アニメーションで組立方法を伝えるPresentation(.ipn)。両ファイルともに原本モデル(IPT・IAM)と連動しており、上流モデル変更が下流成果物に自動反映される一方向フローを維持することが実務の基本。このページはビュー種類・寸法・注釈・GD&T・BOM・Balloon・Explode・Storyboardまで図面段階全般を整理する。
0. 図面パイプライン一望
モデル(IPT・IAM) → 図面(IDW・DWG) → 出力(PDF・印刷・DXF) → 保管(Vault)の順にデータが流れる。図面段階で犯す間違いはほとんどが「モデルで直すべきものを図面で直した」から始まる。原則はシンプル。
- 寸法・iProperty・部品番号はモデルで変える。図面は「見せる」だけ
- テンプレート・スタイルは会社の単一原本から。個人PC複製禁止
- 出力物は自動化。PDF/DXF生成はVault Job ProcessorまたはiLogic Ruleに任せる
この三原則が維持されれば図面再作成コストが急減する。
1. IDW vs DWG
Inventorの図面フォーマットは二つ。選択基準が明確であれば協業コストが減る。
| フォーマット | 長所 | 短所 | 推奨状況 |
|---|---|---|---|
| IDW | ファイル容量小、バージョン互換安定、ロード速い | Inventor外で閲覧不可 | 社内専用、大型アセンブリ図面 |
| DWG (Inventor DWG) | AutoCADで閲覧・印刷可能 | 容量大、外部で編集不可(Inventorのみ) | 協力会社共有、規格提出用 |
ヒント: 同一プロジェクト内で二フォーマットを混在させるとTitle Block・スタイル同期が容易に崩れる。一つに統一し、外部配布用だけ最後にExportする方式が安定的。
2. Drawing環境とシート構成
Drawingファイルはテンプレート(.idw/.dwg)を基準に作る。テンプレートにはDimension Style, Text Style, Layer, Title Block, Border, 図面規格(ISO/ASME/KS/JIS)が事前に入っていなければならない。会社レベルの図面標準を揺るぎなく維持するには、テンプレートを一箇所(ネットワーク共有またはVault)に置き、Inventor Options → File → Default Templatesでパスを指定する。
一図面ファイルに複数のSheetを置け、シートごとにサイズ(A1/A3混合)・Title Block・Borderを別途指定できる。大型設備は「シート1 = 組立図A1, シート2~N = サブパートA3」のように構成すると管理がすっきりする。
注意: テンプレートを各自のPCに複製して使うと設計者ごとに寸法スタイルが少しずつ異なる。必ず単一原本を参照するようパスをロックする。
3. View(ビュー)種類
図面は結局ビューの組み合わせだ。メニュー経路: Place Views → Create → Base。
| ビュー | 特徴 | 実務ポイント |
|---|---|---|
| Base View | 最初のビュー。モデル・スケール・方向・Display Style設定 | スケールは出力用紙基準で事前計算 |
| Projected View | Baseから派生する正投影(正面・側面・平面) | Base選択後ドラッグで自動生成 |
| Isometric View | 等角ビュー | 表題欄近くまたは右上に配置するのが慣例 |
| Section View | 断面ビュー | Section LineをBase内部でSketch + Dimensionで固定 |
| Detail View | 部分拡大。円形・矩形境界 | 拡大倍率は2×、2.5×、5×のような定型値で |
| Break Out View | 外皮一部だけ開けて内部露出 | スケッチ閉じた領域で深さ指定 |
| Break View | 長尺部材中間省略(ジグザグ) | コンベアフレーム・シャフト図面必須 |
| Crop View | 矩形境界でビュー切り取り | 大アセンブリ一部だけ見せる時 |
| Draft View | モデルなしで2Dのみ | 回路・シンボル・注釈専用シート |
ヒント: Section LineはBase View内でSketchで描き、Dimensionで位置を完全に拘束する。拘束なしで描くとビュー編集中に線が滑り、断面位置が変わっても気づきにくい。
注意: 大型アセンブリでSection View生成が繰り返し失敗する場合、Raster Viewで先にビューを置いてから最終出力直前にPreciseへ切り替える迂回経路が最も安定。
Display StyleとHidden Line管理
Base ViewのDisplay StyleはLine(ワイヤー)/Hidden(隠れ線表示)/Shaded(陰影)の三つを組み合わせられる。製造図面の基本は「Shaded Off + Hidden On」だが、大型アセンブリはHidden Line計算がボトルネックになる。
- Hidden Line計算範囲縮小: ビュー右クリック → Options → 「Tangent Edges Off」, 「Thread Feature Off」
- Component Visibility: ビュー右クリック → Visibility → Components。ビューごとに部品On/Off可。内部フレームだけ見せて外装板金を消すような演出が自然
- Model State連動: 板金Flat/Folded、LOD簡素化版をModel Stateで分けてビューごとに異なる状態を選択
4. Dimension(寸法)とHole/Thread Note
寸法はGeneral Dimension(D)を基本とし、整列・連続寸法が必要な時のみBaseline/Ordinate/Chainを併用する。メニュー経路: Annotate → Dimension。
- General Dimension: 自動タイプ判別(線-線、円-円、角度など)
- Baseline / Ordinate: 基準線・原点基準寸法。板金・ドリルジグ図面に有利
- Chain Dimension: 連続寸法。公差累積を誘発するため機能面にはBaseline推奨
- Hole/Thread Note: 円を選択すると
M6 THRU,⌀10 DRILL ⌀16 C'BOREのような表記を自動生成 - Model Dimension Retrieve: モデルスケッチの拘束寸法をそのまま図面へ引き込み。再入力なしで整合性維持
ヒント: Hole NoteフォーマットはAnnotate → Format → Hole/Thread Notesでプロジェクト規格に合わせてカスタマイズしテンプレートに保存する。図面ごとの手動編集はミス誘発の主因。
5. Annotation(注釈)とGD&T
表面粗さ・溶接記号・幾何公差フレームなど製造に必要な記号はAnnotateリボンにまとまっている。
主要注釈
- Centerline / Centered Pattern: 円・パターン中心線を自動生成
- Surface Finish: 表面粗さ(Ra/Rz)記号。ISO 1302シンボル
- Weld Symbol: 溶接記号。ISO 2553 / ASME様式両対応
- Feature Control Frame(FCF): GD&T幾何公差フレーム
- Datum Feature / Datum Target: データム指定
- Text / Leader Text: 一般テキスト・指示線
GD&T作成原則
- データムスキームは部品固定方式を反映する。3-2-1ルール(主面3点-副面2点-三次面1点)が基本出発点
- Feature Control Frameは幾何シンボル → Tolerance Zone → Modifier → Datumの順序。順序を混ぜると規格違反
- Modifier: MMC(Ⓜ), LMC(Ⓛ), Projected Tolerance(Ⓟ)などは用途を理解した上でのみ使用。誤用は製造現場の解釈を複雑にする
- ビュー一貫性: 同じ面はどのビューでも同一のA・B・Cで表記
注意: 投影ビュー方向が変わってもデータム文字は固定。特にSection Viewでデータムを新規付与するミスが多い。
6. Parts List & Balloon (BOM)
組立図にはParts List(BOM)とBalloon(風船番号)を付ける。メニュー経路: Annotate → Table → Parts List。
- Parts Listカラム: Item, Part Number, Description, QTY, Material, Mass基本。Custom iPropertyも追加可能
- Structure: Flat(全パートフラット化) vs Structured(Sub-Assembly階層維持)。大型設備はStructuredの方が読みやすい
- Filter: 特定Subのみ集計、派生品除外など
Balloon
- Auto Balloon: ビューの全コンポーネントに一括配置。矩形/円/同心整列選択
- Balloon Style: Circular / Hex / Triangle / Split(二行)
- 再配置: Balloonを一度に整列するには右クリック → Align
ヒント: Parts ListとモデルiPropertyのPart Numberが一致しなければならない。図面のみ修正してモデルをそのままにすると次のUpdate時にすべて戻る。常にモデルiPropertyを原典として維持する。
BOM構造実務のコツ
- Renumbering: ビューごとに番号が変わると混乱する。同じアセンブリの複数ビューにBalloonを使う時はモデルBOM順序を先に確定しParts Listをシート基準に固定する
- 標準部品のまとめ: ボルト・ナットのようなContent Center部品は「Part Number」基準のグループ化で数量を合算
- Customカラム: Surface Treatment・Heat Treatment・協力会社コードのような社内項目はiPropertyカスタムフィールドで定義しParts Listカラムとして追加
- Sort: 品番昇順がデフォルト。原材料(Raw Material)は上段、標準品は下段に分ける方式も実務で一般的
7. Title BlockとiProperty自動化
Title BlockのPart Number・Description・Drawing Number・Designer・DateはiPropertyプロンプトで自動記入する。モデルのiPropertyだけ変更すれば図面表題欄が一緒に更新される。この連結を切って手動テキストで上書きすると後で見つけられない不一致が積もるので絶対禁止。
ヒント: iLogic RuleでBefore SaveにiProperty妥当性(空値・長さ・形式)を検査すれば、空欄表題欄の図面が外部に出る事故を根本遮断できる。→ 詳細: /cad-tips/inventor/ilogic-vault-troubleshoot (Event Trigger)
表題欄構成のコツ
- Drawing Number: 社内文書管理規則をそのまま反映(ProjectCode-DWG-Seq形式が一般的)
- Revision: Vault使用時はRevision値がTitle Blockに自動注入されるようマッピング
- Scale / Sheet Size / Weight: Property Promptで宣言し手入力を防ぐ
- Approval Block: Designer / Checker / Approverの3段。Vault Lifecycle承認履歴と連結すれば追跡性確保
- 言語フィールド: 多言語図面が必要なら同一フィールドをko/enで二重記載するか国別テンプレートを分離
8. 図面パフォーマンスのコツ
大型アセンブリ図面は生成・保存・PDF出力すべてが遅くなる。
- Raster View: 編集中はRasterで開いて反応速度確保。最終出力直前にPreciseへ切替
- Unused Sheets Suppress: 下書き・参考用シートはSuppressでオフに
- Center Mark Only: Sheet Metal打ち抜きが数千個ならHole Tableの代わりにCenter Markだけ
- Model State活用: 板金展開/折曲、LOD簡素化版をModel Stateで分離し図面ビューごとに異なる選択
- Defer Update:
Tools → Application Options → Drawing → Defer Updateで一括編集後に一度でUpdate - Hidden Line Calculation: 大型ビューのHidden Line計算がボトルネックの場合、そのビューをShadedスタイルに一時切替し出力直前にHiddenへ復帰
- PDF Publish:
File → Export → PDFで「All Sheets」選択時にシート全体を一ファイルに。Vault Job Processorを使えばCheck-In時にPDF自動生成も可能
DWG Export実務
外部協力会社・規制機関提出が必要な時はInventor DWGではなくAutoCAD DWGフォーマットでExportしなければ編集互換が開かない。
File → Export → Export to DWG→ 「AutoCAD DWG」選択- バージョン: AutoCAD 2018フォーマットが最も互換性が広い
- Layerマッピング: Inventor Layer → AutoCAD Layerマッピングをプロジェクト標準で固定
- Line Style / Text Style: 崩れるとFont Substitution警告が出力時に繰り返し出る。テンプレートレベルで揃えておく
注意: Inventor DWGとAutoCAD DWGは拡張子のみ同じで内部構造が異なる。協力会社へ送るときは必ず「AutoCAD DWG」Exportを使う。
9. Presentation(IPN)概要
IPNは組立方法・分解順序を視覚化するファイル。組立説明書・マーケティング映像・訓練資料に同時に使われる。
メニュー経路: New → Presentation.ipn → Insert Model。
一つのIPN内にScene(シナリオ)を複数作れる。「説明書用Scene」と「広報用Scene」を分けておけば一ソースで用途別アウトプットを作れる。
10. TweakとTrail
Tweakはコンポーネントを軸・平面を基準に移動・回転させてExplode状態を作る操作。
- Auto Explode: アセンブリConstraintを分析し指定距離だけ自動分解。
Create Trailsオプションで経路線まで一度に - Manual Tweak: 軸・平面選択後、数値またはドラッグ。精密調整に必須
- Trails: コンポーネント移動経路表示線。図面分解図に組立順序を表記する最も直感的な手段
ヒント: Auto Explode距離は大きすぎないように。距離35mm程度なら部品干渉なく全パートが区別できるケースが多い。距離だけ大きくすると図面に収まりにくくなる。
11. StoryboardとAnimation
PresentationはStoryboardタイムライン上にTweakとActionを載せて動きを作る。
- Tweak on Timeline: 開始時刻・継続時間設定。瞬間移動オプションも可能
- Action: 可視性On/Off、カメラ移動、Appearance変更など非移動動作
- Multiple Storyboards: 一Scene内に複数のStoryboard。展開 → 組立逆再生、段階別ビュー分割など
Video Export
- Publish Video: AVI, MP4(H.264), WMV
- Resolution: Full HD 1920×1080基本、4Kまで。レンダー時間は解像度の二乗に比例
- Quality vs Size: コーデックはH.264推奨。社内共有なら十分な品質、容量も合理的
注意: アニメーション録画中にモデル計算が重なるとフレームドロップが発生する。録画前にIAMをExpressではなくMasterで完全ロードし、Shadow・Reflectionのようなリアルタイム効果はオフにしておく。
12. IPNとIDW連動
Presentationを作ったならそのまま図面に差し込める。IDWのBase Viewでモデルの代わりにIPNを選択すれば展開状態そのままのビューが生成される。
- Parts Listは原本IAMから取得。IPNは表示のみ担当
- Balloonも正常動作: IPNビュー上にAuto Balloonで番号付与
- Trails: IDWビューへそのまま投影。組立順序説明書の基本材料
ヒント: 説明書ページを複数段階に分けたい場合はStoryboard単位でSceneを分割し、各Sceneを別シートのBase Viewとして配置する。段階別ページが自動的に分かれる。
13. 組立説明書ワークフロー例
実務でIDW・IPNを組み合わせて組立説明書を作る時の標準フロー。
- 原本IAMでiProperty・Material・Part Numberを整理
- IPN生成 → Auto Explode(35mm) → 必要なManual Tweak追加
- Storyboardで段階別Scene生成(Pre-assembly, Step 1, Step 2, Final)
- IDWシートごとにSceneを一つずつBase Viewで差し込む
- 各シートにAuto Balloon + 段階別Parts List(Filter適用)
- Title BlockのRevisionをVault Lifecycleと連結
- 最終PDF Export + IPNでPublish Videoとして組立映像まで出力
ヒント: 説明書テンプレートを会社標準で作っておき新規プロジェクトごとに複製すれば作成時間が半分になる。段階別Scene名規則(例: S01-PreAssy, S02-InsertShaft)も統一する。
14. iLogicで図面自動化
iLogicは図面段階でも繰り返し作業を画期的に減らす。代表的な自動化ポイント。
- Title Block iProperty検証: Before Saveイベントで空フィールド・形式エラー検査
- PDF自動Export: Check-In前にDrawingをPDFにエクスポートしVaultの固定フォルダへ
- Revision Bump: LifecycleがReleasedに変わるとRevision文字自動増加
- Parts Listフィルタリング: iLogic Formでチェックボックスをオンにすると特定SubだけBOMに現れる形態
簡単なPDF Exportスニペット例(実適用時はGUID・オプションを最新Inventorバージョンに合わせて調整)。
' Export active document as PDF
Dim oDoc As Document = ThisApplication.ActiveDocument
Dim oPath As String = "C:\Export\" & oDoc.DisplayName & ".pdf"
Dim oPDFAddIn As TranslatorAddIn = _
ThisApplication.ApplicationAddIns.ItemById( _
"{0AC6FD96-2F4D-42CE-8BE0-8AEA580399E4}")
Dim oContext As TranslationContext = _
ThisApplication.TransientObjects.CreateTranslationContext
oContext.Type = IOMechanismEnum.kFileBrowseIOMechanism
Dim oOptions As NameValueMap = _
ThisApplication.TransientObjects.CreateNameValueMap
Dim oDataMedium As DataMedium = _
ThisApplication.TransientObjects.CreateDataMedium
oDataMedium.FileName = oPath
oPDFAddIn.SaveCopyAs(oDoc, oContext, oOptions, oDataMedium)
→ iLogic全般・Event Trigger詳細: /cad-tips/inventor/ilogic-vault-troubleshoot/
15. よくあるミス
- Section LineをSketchなしにドラッグだけで配置 → 後で位置がずれても気づかない
- Parts ListのPart Numberを図面で直接修正 → 次のUpdate時にモデル値に戻る
- Balloon Auto後に手動整理なしで出庫 → 番号重複・重なりがそのまま印刷される
- Shaded Base ViewをPreciseに切替えずPDF出力 → ビュー線が薄くなり製造現場での判読困難
- IPN Auto Explode距離過大 → 図面フレーム外へコンポーネントが飛び出す
- Migration時にIDWを先にアップグレード → 参照モデルが旧バージョンでビューが壊れる。必ず
.ipt → .iam → .idw順
実務チェックリスト
- 図面テンプレートは会社単一原本をネットワーク/Vaultに置きパスをロックした
- 外部配布は最後にDWGでExportし、社内はIDWで統一した
- Section LineはBase View内Sketch + Dimensionで完全拘束した
- Hole/Thread Noteフォーマットをテンプレートレベルで規格化した
- すべての図面ビューでデータム文字A・B・Cが一貫している
- Parts ListのPart NumberはモデルiPropertyと一致する(図面手動上書き禁止)
- Title BlockはiPropertyプロンプトで自動記入される
- 大型アセンブリ図面はRaster Viewで編集し出力直前にPreciseへ切替える
- IPN Auto Explode距離は図面フレームに収まる範囲に制限した
- アニメーション録画前にShadow・Reflectionをオフにし、Master状態でロードした
- 組立説明書用Sceneと広報用Sceneを分離して維持している